香り豊かなかおり米の生みの親、ちどりばあちゃんに会いに行きました。
十和には香り豊かで、かおり米を混ぜると新米のように香りが広がるかおり米「十和錦」というお米があります。
十和錦は黄金錦から突然変異で生まれたもので、それを見つけたのが、ちどりばあちゃんこと、上山ちどりさんでした。ちどりさんは御年88歳。5年ほど前まではご自身も十和錦を作っていたそう。現在は田んぼのお世話が厳しくなり、畑でのみ野菜を作っています。
かおり米を見つけた当時のお話を伺いました。
十和錦を見つけたのは、昭和30年代。黄金錦(こがねにしき)を植えていた田んぼの稲穂に実がつき始めたころ。
上山岩雄さんが田んぼに入って、お米を見ていた時に、3本だけ背の高い稲を見つけたのです。
「今目印をつけなんだら、次見た時にはわからんなっちょうかもしれん(今目印をつけておかないと、次見たときには分からなくなっているかもしれない)」と、持っていた手ぬぐいの端を割いて、背の高い3本の稲に印を付けました。
一般的に異なる米が混ざっていると等級が下がります。
黄金錦も例外ではありません。
だから目印を付けたのか、それとも好奇心から目印を付けたのかは定かではありませんが、その結果、かおり米を見つけることが出来たのです。
発見当時は当然のことながら、「かおり米」や「十和錦」という名前では呼んでおらず、「背の高いお米」とちどりさんたちは呼んでいたそう。
その背の高いお米は、黄金錦と比べると、米の殻が硬く、大きいこと、茎や葉も広く、丈夫だったそうです。
その年に獲れた米はすべて来年の苗にするため、他の苗とは別で育て、収穫しました。
これをもう一年行いました。
試食してみるにも、精米しなければならないのですが、一定量確保しないと精米してもらえなかったのです。そのため、精米してもらえる量になるまで、3年かかりました。
また、食べる分だけ炊こうにも、当時は麦やひえ、あわなどを混ぜて炊くご飯がほとんどで、白米が炊けるのは、お盆、正月、神様を祀るお祭りの時ぐらいだったそう。
なので、背の高いお米を炊くのには苦労したそうです。
いよいよ、背の高いお米を炊くときが来ました。
そのお米は炊いているときから、なにやら香りが強く、黄金錦とは違うことがすぐに分かりました。
実際に食べてみると、とても美味しかったそうで、上山さんは自分たちの食べる分は、このお米にして、農協に出荷するのは黄金錦にしたそうです。
そのため、上山さんは2つの田んぼにそれぞれの稲を植え、次の年には入れ替えて植えるという風にして、2種類のお米が混ざることを避けてきました。
「上山さんとこのご飯がおいしい」という評判が広まり、知り合いから知り合いへお米を分けて、たくさんの人が自分たち用のお米として、作りだしました。
いろんな人が説明するのに「『あの米が~…』『この米は~…』じゃ話が通じんなってきて、ちゃんと名前を付けようかとなった。」と話す上山ちどりさん。当時、十川と昭和が合併して「十和村」になったころ。そして、黄金錦から生まれたことから、上山さんご夫婦で「十和錦」と名付けました。
ここで、かおり米エピソードを…
「今思えば、背の高いお米が苗の時から、いい香りがしていた。」
「お米を炊いているときの香りが数メートル下の道まで漂っていた。」
私も近所からそんないい香りがしていたら、聞きに行きます(笑)
当時もその噂が流れ、いろんな方が上山さんのお家に来られたそうです。
香り高き「十和錦」。それでも少しずつ変化があるようで…
ちどりさん曰く「十和錦の香りが少しずつ弱くなっているかなぁ」と。
十和錦が生まれたときからずっと見てきたちどりさんだからこそ分かる変化なのかもしれません。
ちどりさんなりに考えた原因は、田んぼが大きくなって、トラクターなどの機械が入り、除草剤を撒きだし、人が田んぼに入らなくなったから。
昔は鍬で田んぼの土を掘り返して土に酸素を含ませ、毎日田んぼの中に入って様子を見て回っていた。もちろん、除草剤は使わずに毎日草を引いていた。
この差が十和錦の香りに大きく作用したのではないかと、ちどりさんは話します。
余談
ちどりさんは手先がとても器用で、お家のあちこちにてづくりの小物がありました。
ちどりさんが外に出る時に履く、草履。サドル部分がペン立てになっている紙バンドで作った三輪車。小さい置き物の座布団から鍋敷き。紙バンドで作った編みかご。中に鈴が入っていて、刺繍糸で作った手鞠。着物をリメイクしたこたつ布団から、姿見のホコリ除け。余り糸で作ったミニ草履などなど
これ、全部ちどりさんの手作りだそうです。
さすがにこれは手作りじゃないだろうと思うもの全てが手作りで、全部手作りなんじゃないかと思いました。
次から次に出てくるきれいな小物に感動するばかりでした。
「どうやったら作れるろうと思いながら、あぁでもない、こうでもないと考えもって作るがよ。」と話すちどりさんは、本当にいい笑顔で、私も笑顔になりました。
長い時間、お話していただき、おいしいお茶と栗の甘煮までごちそうになり、ちどりさん、本当にありがとうございました。
今度、ちどりさんに作り方を教えてもらおうと思ったハナでした。
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2019年10月21日 本文の内容を一部修正しました