石川県金沢の茶屋街のひとつである、主計街(かずえまち)茶屋街からほど近くにお店を構える『茶舎觀壽』(ちゃしゃみこと)は、日本茶と台湾茶の専門店。そこで提供されている高知県四万十の広井茶生産組合が育てた「十和煎茶」に、いま密かにファンが増えつつあります。
金沢の茶屋が遠い四万十のお茶に惚れ込み、好みの火入れ具合に仕上げて提供するまでに至った“魅力”は何なのか?その核心に迫ります。
■広井茶生産組合「四万十のお茶」
※季節によって取り扱う茶葉が異なります
高知四万十「十和煎茶」
お茶の産地といえば、一般的には静岡や鹿児島、そして京都などを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。実は、清流四万十川が流れる四国高知の山の中、四万十町十和(とおわ)も、60年ほど前から茶業を行う産地の一つで、広井茶(ひろいちゃ)生産組合のメンバーが丹精込めて育てた四万十のお茶「しまんと緑茶」が存在します。
そのしまんと緑茶の一番茶の荒茶を、信頼のおける生産者の元で好みの仕上がりにしてもらい「十和煎茶」と名付けて販売しているのが、古谷正寿さん(40)・江里子さん(45)ご夫婦が営む、日本茶と台湾茶の専門店「茶舎觀壽」(石川県金沢市彦三町1丁目9-66)です。
Qズバリ、十和煎茶を評価すると?
『甘くてたけだけしいですね!』
あまり聞きなれないこの“たけだけしい”という言葉は、お茶が甘みに加えて一般的に持つ、渋みや苦みをプラスに表現した言い方なのだとか。植物であるからこその生命力溢れる美味さを、十和煎茶はちゃんと備えている魅力あるお茶だと評価されました。
大切にする「お茶への態度」
古谷さんご夫婦は、もともと二人ともサラリーマン。お二人の出会いは茶道教室でした。台湾で学ぶのは今しかないと感じた二人は、揃って勤め先を退社。二人で2014年10月に台湾へと渡ります。そこから約1年間、ご主人の正寿さんは台湾茶の店で働きながら、奇古堂の沈(しん)先生のもとで台湾茶の修業を。奥様の江里子さんは語学留学しながら、台湾茶芸やその他種々の文化講座を受講してその知識を深めました。
その後江里子さんの出産を控え、2015年11月に帰国。全国で物件を探すなか縁あって、二人は金沢にて2016年に茶舎觀壽を開業しました。台湾での修行をきっかけに、夫婦でのめり込んだお茶の世界。知名度や銘柄に捉われず、自分達らしい“お茶への態度”を重要視しながら、次のような選定基準をもうけました。
■煎が効く
■香りと余韻が美しい
■味わいのバランスが取れている
お茶は、見て聴いてもわからない。飲まないと分からない。お茶から広がるコミュニケーションで人と人をつなげる事が重要だと語る古谷さんご夫婦の、想いをカタチにした素敵なお店「茶舎觀壽」です。
広井茶との出会い
台湾茶の師匠である沈先生の元で修行していたとき、いつも口酸っぱく「日本にはいいお茶があるので、日本茶も売りなさい」と言われていた正寿さん。茶メーカーでのサラリーマン時代に抱えていた“お金を出して飲む文化がまだ少ない日本茶”へのもやもやした気持ちを払拭したいことも相まって、日本茶と台湾茶の二本立てのお店を営みます。
全国からお茶を揃えて経営する最中の2019年のある日、正寿さんにあるお茶の記憶が蘇りました。それが遠い昔20年前に出会った、名もなき高知の釜炒り茶でした。滋賀県の実家のご近所さんが出身地の物だと分けてくれた手摘みと思われるお茶は、振り返ると“すごかった”と正寿さんは言います。さっそく高知県須崎市のJAに問い合わるも自家用茶だったのか取り扱いは無し。
諦めきれずにインターネットで高知のお茶を検索していると、興味深い産地にヒット、それが四万十町十和の井崎地区と広瀬地区にまたがって茶畑が連なる「広井茶」だったのです。
そこで地元のJAに問いあわせて、取り寄せて最初に味わったのが遅れ芽を刈り取った「刈番茶」でした。
正寿さん:「だいたい遅れ芽のお茶はこうだろと予想していたら、独特のはちみつのような香りがしたんです。恐らく工場の処理が遅れて1日かおいて、萎凋(いちょう)がたまたま起こったのだろうと。品評会などの審査としては減点でしょうけど、すごくさっぱりしていてお茶らしい香りと、はちみつのような香り。そういうところがすごく良くて、私はそこに惚れこみました。」
お茶の出来、気温、製造などにより、その年ごとに多少は味が変わる世界といえど、手摘み・手刈りの丁寧な収穫によるさっぱり感だけでなく、偶然の産物となった“はちみつのような香り”が、「しまんと緑茶」と「茶舎觀壽」奇跡の出会いとなりました。
お茶は水分補給の一つとしても評価しつつ、何煎も入れられ、日常で飲めるものが魅力だと語る古谷さんご夫婦。オンライン取材の最後に、常茶(じょうちゃ)を昭和の後半に提唱された、小川八重子さんの著書「暮らしの茶」1975年発刊の本を、おもむろに見せてくれました。
お茶は昔から、暮らしの中(日常生活)に根付いている。玉露などを飲み続けると体が疲れるが、番茶のようなお茶は日常的に飲むことができる。
みなさんもぜひ、身近にある「常茶」で、気軽にお茶を楽しんでみてくださいね。
十和煎茶を四万十で味わう
お茶は産地によっておすすめの淹れ方があるもので、茶葉を買ったらぜひパッケージに書いてある通りに淹れてみるのがおすすめです。弊社スタッフも、茶舎觀壽さんで仕上げている「十和煎茶」をじっくり淹れて味わってみました。
自社製造の「いも焼き菓子ひがしやま。」や「焼きモンブラン」などのお菓子もお茶請けに、いつもより会話が弾んだ四万十ドラマスタッフ一同です。
お店の紹介
茶舎觀壽Mikoto Tea House
〒920-0901石川県金沢市彦三町1丁目9-66
TEL:070-3982-0463
HP:https://chashamikoto.com/
金沢の主計街茶屋街のお茶屋さんからも近い風情のある土地に、2016年にオープンしたお店。日本家屋の建物のその玄関を開けると、全国から選りすぐった茶葉がズラリ。日本茶の煎茶、ウーロン茶に台湾茶など40種類以上の茶葉を取り扱っている、日本茶と台湾茶の専門店。10:00~13:00はテイスティング、13:00~17:00は喫茶営業をしている。